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大阪地方裁判所 昭和60年(ワ)1035号 判決

一 請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二 被告が昭和五九年六月一九日原告を債務者として大阪地方裁判所に対し、和解契約違反及び商標権侵害を理由として、「VOGUE」又は「VOGUE SPORTIVO」の商標の使用差止並びに右商標を付したベルト及び関係印刷物の占有を解いて執行官に保管を命ずる旨の決定を求める仮処分の申請をしたこと、右申請に対し同裁判所は債務者審尋をしないで同年七月六日その旨の仮処分決定をしたこと、被告は同月一二日執行官を同道して右仮処分の執行名下に原告店舗内に立入り、原告店舗内の状況を写真撮影したこと、その後昭和六〇年一月三〇日右仮処分申請は取下げられたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

成立に争いのない乙第二九、第三〇号証によれば、本件仮処分決定のうち、債務者の「VOGUE」又は「VOGUE SPORTIVO」の商標を付したベルト及び関係印刷物(タグ、包装、宣伝用カタログ、宣伝用チラシ並びに宣伝用ポスター)に対する各占有を解いて大阪地方裁判所執行官にその保管を命じた部分は、前記のとおり、その執行のため昭和五九年七月一二日同裁判所執行官が原告会社内に立入り目的物を捜索したが発見できず、右執行は不能に終わつたことが認められる。

三 被保全権利について

1 本件仮処分申請が和解契約違反及び商標権侵害を理由としてなされたことは前記のとおりであるところ、原本の存在及び成立につき争いのない甲第三号証、成立に争いのない乙第三、第四号証によれば、本件仮処分申請において被保全権利の一つとして主張された被告の有する商標権は次のものであることが認められる。

登録番号 第一六二九三一九号

出願日  昭和五二年一一月一七日

公告日  昭和五八年二月二日

登録日  昭和五八年一〇月二七日

指定商品 第二一類 バンド類、頭飾品、造花

登録商標の構成 別紙商標公報のとおり

ところで、原本の存在及び成立につき争いのない甲第九号証によれば、右商標については昭和五五年八月三〇日出願人の訴外川島隆から被告に商標登録出願により生じた権利が譲渡され、昭和五六年四月八日特許庁長官にその旨の届出がなされた事実を認めることができる。

原告は、昭和五三年一〇月七日本件商標につき川島から使用許諾を受けてこれを使用してきたものであり、被告は右事情を知悉しながら川島から本件商標権を譲り受けたものであるから原告に対する使用許諾義務を承継したと主張する。しかし、前記のとおり、被告は、本件商標の登録前に、登録出願により生じた権利を川島から譲り受け特許庁長官にその旨の届出をしたものであり、右権利を第三者に対抗しうるのであるから、その時点で川島が本件商標の使用許諾を原告に与えていたとしても、被告が右使用許諾義務を当然に承継するものとは解されない。右の理は、被告が川島の原告に対する本件商標の使用許諾の事実を知つていたとしても異なるところはないというべきである。

原告の右主張は理由がない。

2 原告は、本件商標と「VOGUE SPORTIVO」商標とは類似しない旨主張するので検討する。

本件商標は、別紙商標公報記載のとおりローマ字の大文字で横書された「VOGUE」の文字によつて構成された商標であるところ、本件仮処分の対象となつた原告の「VOGUE SPORTIVO」商標は、「VOGUE」の部分と「SPORTIVO」の部分とで構成されており、本件商標と全く同一の「VOGUE」の部分を含んでいる。したがつて「VOGUE SPORTIVO」からは「VOGUE」の部分より「ヴオーグ」又は「ボーグ」の称呼を生じ、同様の称呼を生じる本件商標と称呼において類似するものということができる。原告は、「VOGUE」は「流行」「はやり」「人気」などの意味をもつ英語、フランス語で、日本語としても一般化しており特別顕著性をもたないと主張する。なるほど「VOGUE」は右のような意味を有する英語、フランス語であるが、日本語としてはそれほど一般化しているものとは認められず、標章としての識別性を有しないとは到底いえないし、かえつて、後記のとおり、「VOGUE」は被告発行のフアツシヨン雑誌の名称として著名であるから、「VOGUE SPORTIVO」のうちの「VOGUE」の部分が要部にあたらないとはいえない。

したがつて、本件商標は「VOGUE SPORTIVO」商標と類似するものというべきであり、また本件仮処分の対象となつた商品はベルトであつて本件商標の指定商品の一つであるバンド類に属するから、被告は本件商標権に基づき原告がベルトに「VOGUE SPORTIVO」商標を使用することを差止める権利を有したものということができる。

3 原告は、本件商標と連合商標の関係になる登録第四七三六三三号商標は期間満了により消滅しており、被告は本件商標を全く使用しておらず、将来も使用する意思はなく、原告において不使用に基づく登録取消審判の請求をしたから登録取消となるのは確実であり、このような商標権を被保全権利とする仮処分は違法である旨主張する。

成立に争いのない甲第一九号証の一、二、前掲乙第四号証によれば、登録第四七三六三三号商標(出願日昭和二九年一一月七日、公告日同三〇年六月二七日、登録日同年一一月三〇日、指定商品第三六類、帽子、肌衣類、手巾、釦鈕及装身用ピンの類、「VOGUE」の文字と「ボーグ」の文字を上下二段に並べて成る商標)と本件商標とは連合商標として登録されたこと、右第四七三六三三号商標は、訴外小島株式会社の出願にかかるものであり、商標権者は右訴外会社から川島隆を経て被告に変わつたこと、被告は右商標につき商標管理人の選任登録をしたが、右商標は昭和六〇年一一月三〇日存続期間満了により昭和六一年一月一〇日抹消登録がなされたことが認められる。しかし、連合商標の一方の商標が抹消登録になつたからといつて、他方の登録商標に対し何らの影響も及ぼすものではない。また、被告が自ら本件商標をその指定商品について使用したことの事実及び将来使用する予定であるとの事実を認めるに足りる証拠はないけれども、そうであるからといつて、商標権が存在する以上は、指定商品に登録商標に類似する商標を使用することは当然に商標権を侵害するものとみなされるのであり(商標法三七条一号)、商標権者は侵害者に対しその使用差止を求める権利を行使できるのである。原告が本件商標について不使用による取消審判の請求をしたことは当事者間に争いがないが、仮に将来本件商標につき商標登録取消の審決が確定したとしても、その時点で本件商標権が消滅するにすぎないから(同法五四条)、本件商標権を被保全権利とした本件仮処分が違法になるものではない。

原告の右主張は理由がない。

4 原告は、「VOGUE SPORTIVO」商標は、本件仮処分の被保全権利として被告が主張した和解契約の対象とはなつていないと主張する。

しかし、成立に争いのない乙第七、第八号証によれば、原・被告間で作成された昭和五五年九月一九日付及び同五六年二月二三日付和解契約書において原告が使用しないことを約した商標は別紙目録記載(同目録の5参照)のとおりであることが認められ、前記のとおり「VOGUE SPORTIVO」商標は「VOGUE」商標に類似するものであるから、右各和解契約によつて「VOGUE SPORTIVO」商標の使用も許されないとされたものというべきである。

原告の右主張は理由がない。

5 原告は、原・被告間の和解契約は瑕疵を帯びたものであり、被告が右和解契約違反を理由として本件仮処分を申請したことは信義則に反する旨主張する。

そこで右和解契約締結に至る経過を検討するに、原本の存在及び成立につき争いのない乙第五、第六号証、成立に争いのない乙第一〇号証の一ないし五、第一一号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一二ないし第一四号証、証人鳥海哲郎の証言により真正に成立したものと認められる乙第一五ないし第一八号証、同証人の証言及び原告代表者尋問の結果によれば、次の事実が認められる。

被告は、今世紀初頭からアメリカでフアツシヨン雑誌「ヴオーグ」(VOGUE)の出版を始め、現在アメリカ、フランス、イタリア、イギリス、オーストラリア、ドイツの六か国でヴオーグ誌を出版し、世界各国で発売しており、フアツシヨン誌としては古典的かつ世界的な権威を持つた有数の雑誌として知られている。日本でも昭和二八年頃からアメリカ版、フランス版等各国版が全国の一流書店で販売されており、日本語版が発売されていないこと、価格がやや高価なことなどから大衆的なフアツシヨン誌ではなく、発行部数もそれほど多くはないけれども、洗練されたフランスやアメリカの最新フアツシヨンを知ることができる高級フアツシヨン雑誌として、フアツシヨンに関心のある各種デザイナーや一般女性の間にも広く知られている。

ところで、訴外川島隆又は同人が設立して代表者となつていた訴外株式会社アート・アンド・クラフト(以下「アート・アンド・クラフト」という。)は、被告の許諾を受けることなく、「VOGUE」の商標を含む被告発行の古いヴオーグ誌の表紙図柄について被告から使用許諾の権限を得たと称して、日本国内の二〇社以上とライセンス契約を結んでいたが、原告も川島に使用許諾の権限があるものと信用して、昭和五三年一〇月七日付で川島との間でベルト、サスペンダー、札入れその他の商品についてライセンス契約を締結し、ロイヤルテイを支払つて自己の製造、販売する商標に「VOGUE」の商標を使用していた。

被告は、日本国内でヴオーグ誌の表紙図柄を無断で商品化したものが多数出回つていることを知り、昭和五五年八月頃から代理人の弁護士を通じてアート・アンド・クラフトやそのライセンシーを相手に不正競争防止法に基づき、「VOGUE」商標の使用差止等を求める仮処分申請を行うなどの法的措置をとるに至つた。そして、アート・アンド・クラフト及び川島との間では、昭和五五年九月九日大阪地方裁判所の仮処分申請事件において和解が成立したが、その内容は「(1)アート・アンド・クラフト及び川島は、被告の許諾を受けていないのに「VOGUE」商標等を原告を含むライセンシーに使用許諾したことを認める。(2)アート・アンド・クラフト及び川島は、被告がライセンシーとの間で、ライセンシーが昭和五五年一二月末日までの猶予期間を得て、その後は被告の許諾のない限り「VOGUE」商標等を使用しないとの条項を含む和解契約を締結できるよう最大限の努力をする。(3)右両名は、本日限り右表示に関するライセンス業務を一切廃止する。(4)右両名は、登録出願中の商標につき出願による権利を被告に無償で譲渡する。(5)右両名は被告に対し解決金二五〇〇万円を支払う。」等というものであつた。被告は、ライセンシー数社に対する仮処分申請手続でも和解したほか、大阪のホテルに原告を含むライセンシー各社を集め、被告代理人の鳥海哲郎弁護士や川島も出席してそれまでの経緯を説明し、アート・アンド・クラフトとの和解の趣旨に沿つてライセンシー各社も和解に応じるよう求めた。そこで、原告もこれに応じることになり、原・被告間で昭和五五年九月一九日付和解契約書が作成されたが、その内容は「(1)原告は、被告から許諾を受けていないアート・アンド・クラフト及び川島から許諾された権利に基づき別紙目録記載の表示を付したベルト、サスペンダー、札入れその他の商品を製造、販売したことを認める。(2)右商品の製造、販売中止のための猶予期間を昭和五五年一二月末日までとする。(3)原告は、被告の書面による許諾なき限り、右の場合を除き、前記表示をいかなる態様、形式にても使用しない。」等というものであつた。

原告は、右和解契約に定められた猶予期間内に在庫品を処分し切れなかつたため、被告代理人と交渉した結果、原・被告間でさらに昭和五六年二月二三日付で和解契約書が作成された。その内容は、「被告は、原告が昭和五五年一二月末日までの猶予期間中前記表示を付した商品の製造、販売中止のため真摯な努力を続けてきたことを評価し、それにもかかわらずなお右商品の在庫品、仕掛品を多数抱えていることを確認のうえ、最終的かつ絶対的な製造、販売猶予期間を昭和五六年五月末日まで与える。」との趣旨の文言が加えられたほかは前記昭和五五年九月一九日付和解契約書と同内容であつた。

以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、被告が、その許諾を受けないで「VOGUE」商標等のライセンス事業を行つていたアート・アンド・クラフト及び川島はもとより、右両名から使用許諾を受けて「VOGUE」商標を付した商品の製造、販売等を行つていたライセンシーに対し、不正競争防止法に基づき仮処分申請を行い、あるいは前記のごとき内容の和解をしたことは、正当な権利行使であるということができる。前掲甲第九号証及び証人鳥海哲郎の証言によれば、昭和五五年八、九月当時被告は日本国内で「VOGUE」の商標登録をしておらず、かえつて川島が本件商標の登録出願中であつたことが認められるが、右のような事実があるからといつて川島が「VOGUE」商標の使用を他に許諾する権限を被告に対抗し得る根拠とはなし難い。

原告は、原・被告間の前記和解契約締結の際被告がトラブルのない正式許諾を受ける機会があるように原告を誘導したと主張するところ、原告代表者本人尋問の結果中にはそのような趣旨の供述部分もあるが、証人鳥海哲郎の証言と対比してたやすく措信し難く、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。また、原告は、右和解契約による猶予期間が経過する時点で被告の窓口となつていた鳥海弁護士の長期外遊に藉口して原告との連絡を絶つたと主張するが、証人鳥海哲郎の証言によれば、同弁護士は昭和五六年六月から約二年間外国へ行つていたけれども、被告の件は事務所の他の弁護士に引継ぎをしていることが認められ、原告がいうように、ことさら原告から被告の弁護士に接触できないようにしたとの事実は認められない。その他被告が原告との前記和解契約締結に至る過程又はその後の経過において背信的な行動があつたというような事実を認めるに足りる証拠もない。

以上のとおりであるから、被告の行為が原告の主張する囮行為と呼ぶべきようなものにあたらないことは明らかであり、被告が和解契約違反を理由として本件仮処分を申請したことが信義則に反するとは到底認められない。

6 原告は、原・被告間の昭和五六年二月二三日付和解契約第三項但書により原告の登録商標「VOGUESPORTIVO」の使用権限を有する旨主張するところ、原・被告間の同日付和解契約書第三項但書に原告主張の文言があることは当事者間に争いがない。前掲乙第八号証によれば、右和解契約書第三項全体の文言は、「乙(原告)は、甲(被告)との和解契約締結後甲の書面による許諾なき限り、前記二記載の場合(別紙目録記載の表示を付した製品の製造・販売猶予期間を昭和五六年五月末日まで与えたことを指す。)を除き、本件表示を如何なる態様、型式にても自ら使用せずもしくは第三者をして使用させないものとする。但し、法律上明らかに甲の許諾なしに使用できる場合は、この限りでない。」というものであることが認められ、前掲乙第六、第七号証によれば、被告とアート・アンド・クラフト及び川島との間の昭和五五年九月九日付和解調書並びに原・被告間の同年同月一九日付和解契約書にも同様の但書規定の存在することが認められる。

しかし、証人鳥海哲郎の証言によれば、アート・アンド・クラフトは一九一〇年代、二〇年代のヴオーグ誌の表紙図柄の商品化事業を行つていたものであるが、被告との和解に際し、アート・アンド・クラフトやそのライセンシーから何とか商品化事業を続けられないかとの要望があつたこと、そこで被告では、ヴオーグ誌の表紙図柄のうち我が国の著作権の保護期間を過ぎたものについては、表紙の図柄だけを「ヴオーグ」の表示を使用しないなど不正競争行為にならない形態で使用するのであれば法律上明らかに許されるということで、その確認の意味で前記和解調書や和解契約書に前記但書規定を置いたこと、原告を含むライセンシー各社を大阪のホテルに集めて開いた集会の席上でも右規定の趣旨を被告代理人の鳥海弁護士が説明したことが認められる。原告代表者本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信せず、他に右認定に反する証拠はない。

そうだとすれば、前記但書規定はそもそも原告が主張するような、原告が「VOGUE」商標に類似する商標について商標権を有しあるいは取得することを予定した規定ではない。そうであるのみならず、原本の存在及び成立につき争いのない甲第一、第二号証によれば、原告は、「VOGUE」と「SPORTIVO」を間隔をあけずに一連に横書きして成る「VOGUE SPORTIVO」の商標につき指定商品第一八類、ひも、綱類、網類、包装用容器として昭和五九年二月二三日登録(第一六五九七八九号)を受けたことが認められるが、右登録商標の指定商品は右記のとおり第一八類の「ひも」等であり、一方本件仮処分の対象となつた「ベルト」は第二一類に属するから(商標法施行規則別表参照)、原告が右登録商標をベルトに使用したとしても、指定商品についての使用とはいえないことが明らかであり、正当な商標権の行使とはいえないから、右商標登録の事実は、被告が本件仮処分において和解契約違反を理由に原告に対し「VOGUE SPORTIVO」商標の使用差止を求めることを阻止する根拠とはならない。原告のこの点の主張は理由がない。

四 疎明の欺罔性について

原告は、被告は小規模の卸売店を訪ねて巧みに倉庫の隅に残つていた売残り商品を買集めて、いかにも店頭で販売されていた商品であるかのごとく本件仮処分申請の疎明方法として提出したものであり、右のごとき疎明は裁判所を冒涜するものであるし、右疎明方法の収集経過からみて被告は原告本社に本件仮処分決定の目的物が存在しないことを十分承知していた旨主張するが、右のような事実を認めるに足りる証拠はない。

かえつて、成立に争いのない乙第二七号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第二四、第二五号証、第二六号証の一ないし三、第二八号証の一、二、証人鳥海哲郎の証言によれば、被告は、本件仮処分申請にあたり、原告が「VOGUE SPORTIVO」商標を付した商品を製造・販売していることを疎明するに足りる資料を収集し、疎明資料として裁判所に提出したこと、被告は原告本社の倉庫及びシヨールームに本件仮処分の対象となつた商品が存在するとの予測のもとに本件仮処分の執行を行つたことが認められる。

したがつて、原告の右主張は失当である。

五 本件仮処分の目的の違法性について

原告は、本件仮処分は、もともと被保全権利の保全を目的としたものではなく、仮処分決定を得た事実を宣伝して原告の信用を引下げ、他の裁判所においてもこれを有利に援用することを目的としたもので、明らかに仮処分制度の目的に反し、違法であると主張する。

たしかに、原本の存在及び成立につき争いのない甲第一〇号証、第一五号証の一ないし五、第一六ないし第一八号証によれば、被告は、本件仮処分決定を得た後、原告を出願人とする「VOGUE」関連商標の多数の登録異議事件において、上申書や弁駁書に本件仮処分決定の写しを添付して提出し、右決定が当事者の審尋もなしに出されたことを強調して被告の登録異議の主張の根拠の一つとしたこと、被告は、原告の取引先のベルト、洋装雑貨等の製造、販売業者を相手にした商標権侵害行為差止仮処分申請事件でも疎明資料として本件仮処分決定正本を使用したことが認められる。

しかしながら、本件仮処分については被保全権利及び保全の必要性が認められることは上来説示してきたところから明らかであり、被告が本件仮処分決定を商標登録異議手続や第三者に対する別の仮処分申請事件で自己の主張を裏付ける資料として使用することが許されないわけではないし、本件仮処分申請時にそのような使用の意図を合わせ持つていたとしても、本件仮処分が違法なものになるいわれはない。

したがつて、原告の右主張もまた失当である。

六 本件仮処分執行の違法について

被告が原告本社に仮処分の目的物が存在しないことを十分承知しながら敢えて本件仮処分の執行を行つたとの事実が認められないことは先にみたとおりである。

被告が昭和五九年七月一二日執行官を同道して本件仮処分の執行名下に原告店舗内に立入り、原告店舗内の状況を写真撮影したことは、先にみたとおり当事者間に争いがない。

前掲乙第三〇号証、昭和五九年七月一二日原告のシヨールームを撮影した写真であることにつき争いのない乙第二一号証、証人鳥海哲郎、同中野耕作(後記措信しない部分を除く。)の各証言によれば、右執行の当日被告の側では被告代理人の水野武夫、鳥海哲郎の両弁護士及び鳥海弁護士の所属する弁護士事務所事務員伊藤清信が執行官に同道して原告本社を訪れたこと、原告側では庶務部長中野耕作が責任者として応対したこと、執行官及び右水野弁護士らは中野の案内で、本件仮処分の目的物である「VOGUE」又は「VOGUE SPORTIVO」商標を付したベルト等を捜すため、原告の倉庫、シヨールーム及びベルトの製造現場を見て回つたこと、その際伊藤がシヨールーム内において「ルオモ・ヴオーグ」の商標を付したベルト、立札及びその傍らに置かれた「ルオモ・ヴオーグ」という雑誌並びに「カサ・ヴオーグ」の商標を付したベルト、立札等が陳列されている状況を持参したカメラで数枚撮影したこと、右撮影にあたり被告側で中野に了解を求めたところ、同人は「会社の営業の邪魔にならないようにしてほしい」と言いつつ写真撮影は了解し、撮影中もそばにいたが制止することもなかつたこと、そのとき撮影された写真は後に被告において原告に対する別の仮処分申請事件で疎明資料として使用したこと、右写真撮影したシヨールームは原告本店社屋の二階にあり、外部からは見えず、商品や試作品の見本等が陳列されており、問屋等の原告の顧客を案内して見せることのある場所であること、以上の事実が認められる。

証人中野耕作の証言中には、同人は被告側から積極的に写真撮影についての了解を求められたことはなく、シヨールームで伊藤が写真撮影していることに気付いたが執行の範囲内のことだと思つた。そして、伊藤に対し、営業や仕事の邪魔にならないようにしてほしいということと、本件仮処分以外には使用しないでほしいということを言つたところ、伊藤もわかつたと答えた旨の供述部分があるが、証人鳥海の証言と対比して右認定に反する部分は措信し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、被告代理人らが執行官とともに見て回つた場所は、本件仮処分の目的物である商品が存在すると予想される場所に限られており、仮処分執行の目的から逸脱したものとは考えられないし、写真撮影にしても、直接本件仮処分の対象となつた商品ではないけれども「VOGUE」の文字を含む商標を付した商品を、顧客に公開しているシヨールームにおいて原告側立会人の了解を得て撮影したものであり、とくに営業の妨害になつたとか企業秘密が盗まれたとかの事実も認められず、本件仮処分報告時に被告側に違法な行為があつたとは認められない。

したがつて、原告の右主張も理由がない。

七 よつて、原告の請求は、その余の判断をするまでもなく理由がないから、これを棄却する。

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